インタビュー:鳥の劇場 「表現教育」からみつける子育てのヒント

 

子どもの能力を育む手法として「表現教育」が注目されています!

これからの時代に必要な、表現力、コミュニケーション能力、想像力など、人間誰しも持っている力を演劇の要素を取り入れて引き出し、伸ばしていく「表現教育」。平成22年度から、文部科学省が「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」を展開し、芸術表現を通じた様々な取組みが進められています。
鳥取県鹿野町にある小中一貫校の「鹿野学園」で表現ワークショップの講師として活動している鳥の劇場の中島諒人さんと中川玲奈さんに、表現教育から得られる子育てのヒントをお聞きしました。

 

Q:2017年より鹿野学園の教育活動で子どもたちと関わってこられた鳥の劇場さんですが、どんなことを意識して取り組まれていますか?

中島:私たちは年に約30回、「表鷲科(あらわしか)」という科目で「表現力」と「コミュニケーション力」を身につける表現ワークショップを行っています。このワークショップは、「自分」「他人」「見てくれている人」の3者の関わりで成り立っていて、演じた体験、何かになれた体験、グループで何かを達成した体験、そして人が褒めてくれた体験などを通して、失敗しても次の機会に越えていくっていう積み重ねができるプログラムになっています。これを繰り返すことで、「自分にも何かを成し遂げる力があるということに気づく」ことが大切だと思っています。
中川:この授業では思ったことを伝えたり体で表現したりコミュニケーションをとって何かをやってみるグループワークが中心です。もちろんそういったことが得意でない子どももいるんですけど、「これは苦手だ」と自分で気が付くことも大切なんですよね。そもそも子どもって、今日できたから次もできるというわけじゃなくて、できる時もあるしできない時もあるというジグザグを繰り返しながら成長していく。この活動のスタート時4年生だったお子さんが8年生(中学2年生)になって、「楽しいっていう気持ちがなぜ楽しくなるのかが分かった」「大人が真剣に考えてこの授業を考えてくれているのがわかった」って言ってくれた時は、私たち大人や人との関わりの中から学んでいっている姿を実感できて嬉しかったです。成長過程のど真ん中に関われているっていうのは、私たちもドキドキしているし緊張もするんですけど、すごく面白いです。

 

Q:「表現教育」が子どもたちに必要とされる理由は何だと思われますか?

中島:アートを使ったワークショップは、もともと、1990年代にヨーロッパで始まったものなんです。ちょうど日本ではバブルで調子のいい時代なんですが、イギリスなんかは1980年代から経済がダメになっていて、新しい可能性を探していた頃ですね。それでどんどん新しい仕事がでてくる。そうなると今ある仕事を覚えていても将来役に立たない、仕事がないということになってしまうんですよ。それならば将来を担う子ども達に何を与えられるんだろうって考えたときに「それは新しい状況に適応できるコミュニケーション力や創造する力」じゃないか?というのが基本的な考え方なんです。日本では、最近になって取り組みが盛んになってきていますが、我々の世代が子どもたちの教育のために何をしなければならないかを真剣に決めなきゃいけないという段階に来ているんですね。今はものすごく大きな転換期に来ていると思います。

中川:私たちが講師をしている鹿野学園がある鹿野町っていうのは、みんなが知り合いで言わなくても通じるみたいなところがあって、子どもたちはまず高校に進学したときに人間関係でつまづいてしまう傾向があって。そういう背景もあるから、外部からきた私たちも先生たちと一緒に何とかしようと関わってやっています。グループワークの中でつまづきながら見つけた「自分の良さを使いこなしていく」ことが鹿野学園での9年間の表現ワークショップの目標です。うまくいかなくても次があるから大丈夫!って思えるメンタルを育てていくことは大人になってから生きてくると思っています。
中島:子どもは本当にそれぞれに個性をもっていて、可能性もみんなちがってそれぞれでいいはずなのに、その違いっていうのが均(なら)されてしまっている状況があると思うんですよね。だから、今の社会で重要な事は、大人が子どもたちの持っている「それぞれの差」をどうやってその良さを保ったまま「それぞれのなりたいカタチ」にむけて育てていけるかを考えたいですね。

 

鳥の劇場中島さん

 

Q:身近なところで私たち親が意識して取り組めるところはなんでしょう?

中川:私も含めて、子育てをしている渦中にいるとどうしても必死だし余裕がなくなって子どもを褒めたりとかもなかなか出来なかったりしますよね。うちの子は、今小学4年生なんですが、小さな頃から鳥の劇場の皆さんにいっぱい話しかけてもらっていっぱい褒めてもらってるんですよね。もちろんいけないこともちゃんと叱ってもらってルールも教えてもらって。いろんな人が声をかけてくれるっていうのはすごく子どもにとっても親にとっても贅沢で嬉しいことだと思うんです。親自身が見つけきれないその子のいいところを発見できるとありがたかったりするので。だから私も、同級生のお子さんのこととか「今日こんなことやってたのを見たけどすごくよかったよ」とか、何かちょっとしたことでも伝えるように心がけています。人との関わりが薄くなりがちな今だから大切な事かなって思います。
中島:「子ども時代を過ごす」とひと言でいっても、僕らの過ごした時代と今の子どもとは全然社会が違いますよね。現在は、将来はこんな不安があるとか、今これをしておかなければ困るとか、こうなるために今何をすべきか、みたいに人生をマニュアルのように区切ってしまいがちで、子どもは相当窮屈な時代を生きていると思う。不安をあおるような社会の風潮っていうのがあるんじゃないかな。結局親自身が不安を生きているから子どもにその不安を投影してしまうわけだけど、でも、どっかで親がその不安から守る防波堤になってやるっていうことが必要じゃないかと思うんです。子どもの好きなことを一緒にやるとか、なんでもいいんですけど子どもとの時間をつくることを大切にしてほしいかな。

 

表現ワークショップの様子を語るお二人

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